中国最高裁判所は4月21日、「中国裁判所の知的財産権案件における法律の適用に関する年次報告(2024年)」を発表した。この報告書は、全国の裁判所が2024年に裁判終了した知的財産権案件から43の法律適用規則を整理したものであり、その中の専利案件の判決要旨は以下の通りである。
1.専利権評価報告書の専利権侵害紛争案件における位置付け
【判決要旨】専利権侵害案件において、専利権評価報告書は案件審理において証拠の一つとして用いられるが、係争専利の有効性は依然として専利権付与書類及び行政部門の発効決定書に基づいて判断しなければならない。専利権者が有効な専利に基づき提起した侵害訴訟において、係争専利は権利付与の法的要件を満たさないという専利権評価報告書の否定的結論のみをもって当該権利者に訴権行使する根拠がないと認定して、その訴えを棄却することはできない。
2.関連案件の専利権侵害判断の画一化
【判決要旨】同一の被疑侵害製品、同一の専利権及び同一の非侵害抗弁事由について、関連する案件の認定は一致させなければならず、判決の矛盾を防止する。被疑侵害者が一審判決後に上訴しなかったとしても、二審裁判所は他の確定判決における同一の抗弁事由の成立認定に基づき、法により判決を変更して被疑侵害者の抗弁が同様に成立すると認定することができる。
3.履行条件付きの判決及び履行遅延期間中の債務の利息
【判決要旨】1. 係争専利が財産保全措置の対象となったため専利無効審判手続が中止され、中国国家知識産権局が専利権侵害訴訟判決前に審決を確定できなかった場合、裁判所は案件の具体的状況に応じ、判決で定めた義務の履行について段取りを組むことができる。これには、侵害行為の差止め、損害賠償等の判決事項の履行に必要な条件を付すことが含まれる。例えば、専利権者の提訴の根拠となる専利請求項は国家知識産権局の審査により有効性維持の審決が下されることを履行前提条件として、また、その間の債務利息等についても併せて決めることで、関係当事者間の利益を合理的に調整する。
2.履行条件付きの判決について、履行遅延期間の債務利息を併せて決めることができる。すなわち、判決事項の履行条件が成就した後、発効判決送達日から履行条件成就日まで、全国銀行間同業拆借中心(全国銀行間資金調達センター)が公表する同期間のローンプライムレート(LPR)に基づいて利息(単利)を支払う。判決で定めた履行条件が成就した後も金銭的な支払義務を履行しない場合、履行遅延期間の債務利息を倍額で支払う。
4.専利権無効の審決後に既に執行された専利権侵害判決の取扱い
【判決要旨】1.専利権無効審決が出された後の執行行為は、専利法第四十七条第二項に規定する「無効審決は発効した専利権侵害判決に遡及的効力を及ぼさない事情」に該当せず、関連執行金は一般に執行裁判所が執行取消手続きにおいて執行申出人に対して被執行者へ取得済みの財産及びその果実を返還するよう命じるものとし、裁判所も状況に応じて再審判決において返還を命じることができる。
2.複数の被疑侵害者を対象とする専利権侵害判決において、被疑侵害者の賠償義務履行時期の相違により専利法第四十七条第二項の適用が異なり、公平の原則に反する場合、裁判所は専利法第四十七条第三項の規定を適用して処理することができる。
5. ジェネリック医薬品申請者が専利情報登録前にタイプ1声明を行った場合の取扱い
【判決要旨】医薬品の登録販売者が規定期限内に正確に専利情報を登録したが、ジェネリック医薬品申請者が専利情報登録に先立ってタイプ1声明を行った場合、医薬品の登録販売者は合理的な期間内にジェネリック医薬品申請者に対し声明タイプの変更を要求する機会を与えられなければならない。ジェネリック医薬品申請者がタイプ1声明からタイプ4声明への変更を申請し、または合理的な期間内に変更を拒否し、あるいは他の誤った声明タイプへの変更を申請した場合、専利権者が提起した医薬品パテントリンケージ訴訟について、裁判所は受理し実体審理を行わなければならない。
6.医薬品パテントリンケージ案件における医薬品技術案変更の取扱い
【判決要旨】医薬品パテントリンケージ案件において、裁判所は医薬品審査承認部門の医薬品販売承認のための技術案に基づき、専利の権利範囲に入るかどうかを判断しなければならない。医薬品販売の申請者は、専利の権利範囲に入るかどうかの判断に影響を及ぼす技術案の変更について、裁判所に遅滞なく誠実に説明しなければならず、これに従わない場合は法により不利益な結果を負わなければならない。
7.用途特許の発明者資格の認定
【判決要旨】用途特許は既知の化合物の新しい用途を見出したときの発明であり、肝心なところは既知化合物自体ではなく、既知化合物の新用途の発見と応用にある。「既存医薬品の新用途」というアイデアが研究開発において重要な役割を果たした場合、アイデアを提案した者、具体的技術案の作成または実質的改良、段階的研究開発に実質的貢献をした者は、いずれも発明者になることができる。
8.使用環境特徴の認定及び侵害判断
【判決要旨】使用環境特徴の認定は、係争専利の発明名称、発明主題、専利請求の範囲中の設置等に関する記載に基づき、明細書の内容と合わせて総合的に判断することができる。被疑技術案が係争専利請求の範囲の関連使用環境の特徴を有するかどうかを検討する際、必ずしも被疑侵害製品が使用環境特徴に関連する構成要件を有していることを要求するものではなく、被疑侵害製品が使用環境特徴で限定される使用環境に適用可能であれば十分である。
9.公序良俗に違反し、公共の利益を害する祭祀用品類の発明は専利権の対象とならない
【判決要旨】1.専利制度は科学技術の進歩と経済社会の発展を促進する発明創造を保護することを目的とする。科学技術の進歩と経済社会の発展に実益をもたらさないいわゆる「発明創造」は、専利権保護の対象とならない。専利法第五条第一項を含む具体的な条項の理解と適用は、専利法第一条に定められた立法趣旨に沿わなければならない。
2.司法実務においては、時代のニーズを満たし、かつ国民に認められた公序良俗を提唱すべきである。その祭祀用品が俗信の葬祭用品でなかったとしても、専利法第五条第一項に定められた公序良俗に違反し、または公共の利益を害する情状に該当する可能性がある。
10.専利無効審判の口頭審理における専利請求の範囲の削除補正の受理
【判決要旨】専利無効審判の口頭審理において、中国国家知識産権局が補正後の一部の専利請求の範囲を認めないと判断した場合、専利権者が認められなかった専利請求の範囲を削除することを許可し、残りの認められる請求項を基礎として審査すべきである。当該削除が専利権者の審理の場での口頭による提出か書面提出かを問わず、国家知識産権局は原則として認めなければならない。審理の場で差替ページを提出しなかった場合、国家知識産権局は一定期間内に提出することを要求できる。指定期間内に差替ページを提出しなかった場合、専利権者が法に基づいて専利請求の範囲を補正しなかったものとみなし、これに基づき適切な処理を行うことができる。
11.保護を求める意匠が明確に示されているか否かの認定
【判決要旨】一般消費者の知識レベルと認知能力に基づき、意匠図、使用状態参考図及び一般常識を総合的に考慮したうえで、当該図面に示された意匠に依然として複数のデザイン解釈が可能な場合、意匠出願書類が保護を求める製品の意匠を明確に示していないと認定することができる。
(出所 中国最高裁の公式サイト)