中国最高裁判所は、知的財産権法廷が設立から5年間に「結審」(注:「結審」は、中国の法律体系において、裁判所が事件を審理し、最終的な判決または裁定を下すプロセスを指します。「結審」とは、事件が法廷で審理され、裁判官が案件を審査し、分析し、最終的な結論を出すプロセスを意味します。審理が完了し、裁判所が最終的な判決または裁定を下した場合、その事件は「結審」となります。)した15710件の技術系知的財産権と独占に係る案件から影響力のある十大案件と100の典型判例を選び、発表した。
知的財産権法廷はこの5年間に専利、植物新品種に係る権利付与・確認行政二審案件2977件を結審し、確かな技術的進歩をもたらす科学技術イノベーション成果が法に基づいて権利付与され保護されることを保障した。
新興産業における科学技術イノベーションの保護への積極的な取り組み
「磁気共鳴画像法」に係る特許権利確認案件において、所謂「最も広い合理的解釈」原則を適用する際には「合理性」を起点とし着地点とすることを明確にし、企業の独創的なイノベーションを保護した。「チカグレロル」に係る医薬品の特許権利確認案件において、追加実験データの受け入れ条件を明確化にし、法に従って医薬品のイノベーションを保護した。「ルータ」に係る特許権侵害案件において、通信分野の複数主体によって分散して実施される方法専利の実質的な保護への道を検討した。「リチウム電池保護IC」に係る集積回路配置図設計権侵害案件において、集積回路配置図設計の占有権の基礎的な認定と侵害判断のための基本的な規則を明確にした。
中国伝統医薬のイノベーションを効果的に奨励
「漢方薬取分け機」に係る特許の権利確認案件において、特許権の有効性を維持するよう判決を変更し、中国伝統医学分野の発明を効果的に保護し、新型コロナウイルス感染蔓延防止をサポートした。「イ族(少数民族)の医薬」に係る特許権帰属紛争関連案件において、研究所責任者が研究所の公的成果を私物化した経緯を明らかにし、法により民族医薬研究所の合法的な権益を保護した。「婦人科用漢方坐薬」に係る特許権利確認案件と「撳針(鍼治療における鍼の一種)」に係る実用新案権利確認案件において、伝統医学の基本概念と革新の法則を尊重し、漢方薬分野の技術革新を適宜に評価した。
「資金」と「知恵」双方の利益バランスを合理的に維持
「指紋識別チップ技術」に係る専利権帰属紛争関連案件において、技術成果の流通経路を整理することで退職社員が会社の発明を横領したことの一部終始を明らかにし、法により科学技術企業のイノベーションを保護した。「携帯用詰め替えスプレーボトル」に係る実用新案考案者の報酬紛争案件において、考案者報酬の算定基礎に専利権保護にともなう賠償金も含まれるべきであることを明確にし、発明者・考案者がイノベーション成果の活用から相応の利益を得られるよう保障した。
2021年~2023年に二審の知的財産法廷で逆転判決された特許権侵害案件の損害賠償額は平均272万7000元で、知的財産権の保護を着実に強化するという明確な司法政策の方向性を伝えた。
権利侵害賠償の着実な引き上げ
「メラミン」に係る特許・技術秘密権利侵害案件において、第一期プロジェクトが権利を侵害したとして賠償金2億1800万元が命じられ、当事者らは第一期プロジェクトと第二期プロジェクトの実行中に包括的な和解に達し、権利者が最終的に受け取った賠償金は6億5800万元で、国内の知的財産権賠償金の記録を更新した。「ゴムの老化防止剤」に係る技術秘密権侵害案件では、2億200万元の賠償金の支払いを命じ、行為保全裁定の履行を拒否した企業とその実質的な責任者に最高罰を科した。「WAPI」に係る通信方法特許権侵害案件において、1億4300万元の賠償を命じた。
懲罰的賠償制度の完全な実施
「カーボポール(Carbopol)」に係る技術秘密侵害案件において、最高裁判所は初めて懲罰的賠償制度を適用して法定懲罰的賠償の最大倍数である5倍となる賠償額 3000 万元超の判決を下した。「金粳818」に係る水稲植物新品種権侵害案件において、情報マッチングプラットフォームの責任者に懲罰的賠償の支払いを命じた。「丹玉405号」に係るトウモロコシ植物新品種権侵害案件において、懲罰的賠償の計算基準が厳密に確定できない場合に既存証拠に基づいて賠償の基数を確定することができると明確にし、懲罰的賠償制度の抑止力を効果的に発揮した。
権利侵害者に必ず責任を負わせる
「メラミン」に係る特許・技術秘密権利侵害案件において、法に基づいて関係する権利侵害者全員が連帯して責任を負うと認定し、期限までに権利侵害製品の生産ラインを撤去するよう命じた。「縦型二次構造柱ポンプ」に係る実用新案権侵害案件において、販売許諾のみを行った侵害者にも損害賠償責任があることを明らかにした。「裕豊303」に係るトウモロコシ植物新品種権侵害案件において、権利侵害となる種苗が不活性により市場に出回らなかったとしても、侵害者は賠償責任を負わなければならないことを明確にした。「登海605」に係るトウモロコシ植物新品種権侵害案件において、会社を侵害のための道具として利用した場合、実質的な責任者と会社が共同で権利を侵害したと認定し、連帯賠償責任を負わせた。
法廷はこの5年間に146件の独占案件と326件の技術秘密案件を「結審」し、競争活力の維持とイノベーション力の刺激に努めてきた。
法により独占行為を厳格に規制
「レンガ・タイル協会」の水平的独占協議紛争案件では、水平的独占協議の自発的実施者は独占禁止法上の救済対象とはならないことを明らかにした。「葬儀サービス」公営企業の支配的な市場地位濫用案件と「給排水」公営企業の支配的な市場地位濫用案件において、公営企業の活動の境界線を多角的な観点から画定し、国民の基本的な生活を守った。「コンクリート企業」の水平的独占協議に係る行政処罰案件において、協同行為の認定規則を明確にした。「工業用潤滑油」に係るハブアンドスポーク協議案件において、初めてハブアンドスポーク協議を独占行為と認定した。「サクサグリプチン」に係る薬品特許権侵害案件において、独占禁止法に基づく薬品特許のリバースペイメント協議の規制について暫定的な指導を出した。
技術秘密の保護を着実に強化
「バニリン」に係る技術秘密権侵害案件において、賠償金1億5900万元の支払いを命じ、法定代理人に全部の連帯責任を負わせた。「リチウムイオン正極材」に係る不正競争案件において、権利者の訴訟請求を全額支持し、賠償金5000万元の支払いを命じた判決が即時履行された。ハイブリットトウモロコシの親品種である「W68」に係る技術秘密侵害案件において、育種材料としての親品種が技術秘密保護の対象であることを明らかにし、種子産業における知的財産保護の新たな道を切り開いた。
訴訟における不誠実な行為を積極的に規制
「ターゲット式流量計」に係る実用新案権に関する悪意のある訴訟において、当事者が権利の根拠がないことを知りながら、侵害訴訟を繰り返したことは悪質な訴訟に当たることを明らかにした。
法廷はこの5年間に外国当事者に係る案件1678件を受理し、1198件を結審した。ますます多くの外国企業が知的財産権紛争を中国の裁判所で解決するようになった。
国内外の当事者を平等に扱う
「アンテナ装置」や「光源装置」などの特許権付与・確認案件において、法により外国企業の発明関連権利と利益を保護した。法廷最初の案件である「自動車用ワイパー」に係る特許権侵害案件において、「先行判決+仮禁止令」の裁判方法を活用して権利者を速やかに救済した。「インターロック付きの髄内釘」に係る特許権侵害案件においては、権利侵害者が帳簿の提出を拒否したため、外国当事者の2000万元余りの賠償請求を全額支持した。「セルラーゼ」に係る特許権侵害案件において、外国当事者の2000万元余りの賠償請求を全額支持した。「アゾ系染料」に係る特許権侵害案件において、賠償額を1950万元に引き上げる外国権利者の請求を支持した。「バロキサビル・マルボキシル」に係る医薬品のパテントリンケージ案件において、ジェネリック医薬品の技術案が外国当事者の特許権の保護範囲内にあることを認定した。
世界的な最先端課題に積極的に取り組む
「OPPO社とシャープ社」の標準必須特許のライセンス紛争の管轄権をめぐる案件において、連結する適切な原則を適用して標準必須特許のグロバールライセンス条件をめぐる紛争の管轄権を確保した。「希土類永久磁石材料に係る特許」の支配的な市場地位の濫用案件において、特許権の行使と独占禁止の関係を整理し、関連市場を科学的かつ合理的に画定することにより、外国権利者による特許実施許諾拒否は独占的行為には当たらないと判断し、判決を変更した。
市場の良好な法的環境を創出
「DAKSシステム」に係る技術秘密侵害案件の「結審」後、国際的に有名な石油・ガス開発企業が、この裁判は中国の公平で公正、開放的で透明な法的環境を国際社会に十分に示したと記した書簡を送った。
法廷の設立から5年間、民事二審実体案件で、調停によって取り下げられた割合は37%に達し、9件が刑事犯罪の疑いがあるとして管轄機関に移送された。
誠心誠意調停に取り組む
「インテリジェント物流ロボット」に係る実用新案権侵害関連案件において、ユニコーン企業2社に10数件の未解決案件について一括和解するよう促し、新たな生産力の共同開発を推進した。「コードレス掃除機」に係る特許権侵害案件において、中国と外国の当事者にグローバルな紛争についての一括和解するよう促し、「東洋の経験」を生かして国境を越えた紛争を解決した。
訴えの発生源から案件を解決
「自撮り棒」に係る実用新案権関連案件において、権利侵害を繰り返した製造者に対して100万元という厳しい賠償金の支払いを、また小売業者には2000元という妥当な賠償金の支払いを命じ、トレーサビリティと権利保護を効果的に指導した。「セルフ型ウェブサイト作成」ソフトウェアに係る関連権利保護案件において、賠償額算出の基準を合理的に定め、権利侵害を誘発して営利目的の訴訟を行うことを断固として規制した。
法に基づいて法的制裁を強化
「巻線機」に係る実用新案権侵害案件において、三つの懲罰決定を下し、裁判所の立入検査を妨害し、故意に証拠の提出を遅らせたとして、関連企業とその法定代理人をも処罰した。法に従って不法行為の手掛かりを移送した。「異常出願」をめぐる専利代理契約紛争で違法な手がかりが移送された案件では、架空、捏造された専利の契約は無効と判断した上で、関連の違法な手掛かりを行政管理部門に移送した。
(中国最高裁判所ホームページから翻訳)