中国汽車工程学会(China-SAE)の知的財産権分会、IMT-2020(5G)推進組と自動車標準必須特許作業部会が『自動車業界の標準必須特許ライセンスのガイドライン(2022年版)』を共同公表した。同ガイドラインは「産業チェーンのいずれの段階でもライセンスを獲得する対象となり得る」との原則など四つの核心的原則を提示し、合理的なライセンス料の算定基数、考量要素、算定方法及び累積ロイヤルティ料率の制限を説明し、自動車業界に標準必須特許ライセンスの参考文書を提供した。
自動車業界の標準必須特許ライセンスのガイドライン
自動車産業の高品質の発展をさらに促進し、産業間の連携と統合的な発展を図るため、中国汽車技術研究センター有限公司と中国情報通信研究院は、中国汽車工程学会の知的財産権分会、IMT-2020(5G)推進組及び自動車標準必須特許作業部会の協力の下で、業界の有識者を集めて起草、研究、論証を行い、作業部会ごとに意見募集を行った上で、業界の参考として「自動車業界の標準必須特許ライセンスのガイドライン」を作成した。
一、定義
「標準必須特許(SEP)」とは、標準規格の技術を実施する上で必ず使用する特許をいう。
「自動車製品」とは、自動車用部品又は完成車をいう。
「自動車業界の標準必須特許」とは、自動車製品が準拠する技術標準規格に係わる標準必須特許をいう。
「公平、合理的、非差別」の原則は、国際的な標準化組織の公認したライセンス原則であり、FRAND原則ともいう。
二、自動車標準必須特許ライセンスの核心的原則
1、利益のバランス
標準必須特許ライセンスは、利益のバランス原則に従わなければならず、特許権者のイノベーションへの投入について合理的な対価を得ることを保障するだけでなく、ライセンス料を合理的な範囲内に抑える必要があり、それによって技術基準の広範な普及と応用を保障し、自動車産業の健全かつ持続可能な発展を促進する。また社会公衆の利益をも考慮すべきである。
2、公平、合理的、非差別
「公平、合理的」の原則とは、標準必須特許の権利者はFRAND原則を遵守するという前提の下でその研究開発への投入と技術革新について対価を得る権利を有するが、そのライセンスによる対価は合理的範囲内で維持されるべきであるとのことをいう。
「非差別」の原則とは、標準必須特許の権利者は実質的に同一又は類似条件にある実施者に実質的に同一又は類似条件でライセンスをすべきであり、正当な理由なくライセンスを拒否し又は不合理なライセンス条件を付加してはならず、ライセンス条件又は条項に明らかな差異がある場合には合理的な説明が必要とされ、実質的に同一又は類似条件の実施者が競争上不利な立場に置かれることを回避することをいう。
標準化組織で承諾済みの標準必須特許について、その後、承継、譲渡などで特許権の帰属が変更される場合、元の特許権者はその承継人又は譲受人と適切な形式を通じて、後のすべての承継人又は譲受人に従来どおりに「公平、合理的、非差別」原則の制約を受けさせなければならない。
3. 産業チェーンのいずれの段階でもライセンスを獲得する
FRAND原則又は標準化組織の知的財産権政策に基づき、いかなる善意の特許実施者も標準必須特許のライセンスを得ることができ、実施権のライセンスを希望する実施者の産業チェーンにおける段階を問わず、標準必須特許権者はそれに実施権をライセンスする義務がある。
標準必須特許権者は、同一産業チェーンで異なる段階の製造者に標準必須特許ライセンス料を重複して請求してはならない。
4.業界間の差異を交渉で対応
自動車産業チェーンは複雑であり、完成車は何万個もの部品で構成されており、円熟した産業実務において、自動車業界の商慣行は産業チェーンの垂直的なライセンスモード、即ち通常、自動車企業は契約締結により上級のサプライヤーに部品製品の知的財産権ライセンス問題を解決してもらい、また完成車メーカーはサプライヤーに完成車に用いられる各種の部品製品の知的財産権関連問題を解決してもらう。
自動車製品向けの標準必須特許ライセンスモードと自動車業界現行のライセンスモードや商慣行との間に差異又は不一致がある場合、双方の産業の特性と商慣行を十分に尊重、考慮し、積極的で善意的な方式で交渉し、双方に受け入れられるライセンスモードを協議する。
三、合理的なライセンス料算定の原則
1.標準必須特許ライセンス料算定の基数
標準必須特許ライセンス料算定の基数は、標準必須特許技術が自動車製品の中で実際に貢献をもたらした製品ユニットをライセンス料算定の基数とすべきであり、同時に標準必須特許の技術と関係のないその他の製品ユニットをライセンス料算定の基数にするのを避けなければならない。
自動車製品の部品と完成車のどちらをライセンス料算定の基数にするとしても、標準必須特許技術の当該自動車製品への実際の貢献度を考慮すべきである。その他、ライセンスの段階を問わず、同一の自動車製品の標準必須特許ライセンス料はほぼ同じであるべきであり、ライセンスの段階が異なる理由でライセンス料が著しく異なることがあってはならない。
2.ライセンス料算定の要素
合理的なライセンス料の算定は、標準必須特許技術の自動車製品への実際の貢献度、業界の累積ロイヤルティ料率、専利権者が保有する標準必須特許数、特許の地理的分布などの要素を考慮すべきであり、特許が標準になることによって付加的な利益を得てはならない。
標準必須特許の自動車製品への価値貢献度は、自動車製品の価値が技術、市場、生産、銘柄、アフターサービスなど複数の要素、特に銘柄の貢献によって定められるものであることを考慮しなければならない。その他、標準必須特許技術が自動車製品の販売と利益にどれほど貢献したかを考慮しなければならない。
特許権は地域性があり、合理的なライセンス料の算定は実施者の生産・販売地域、特許権者の特許の地理的分布と地域間の経済格差などの要素を考慮し、地域によって異なるロイヤルティ料率を適用することができる。
3.累積ロイヤルティ料率の制限
ライセンス双方の利益のバランスを図るため、自動車製品の標準必須特許ライセンス料の合計は合理的な上限がなければならず、その上限値はライセンスされた製品の所属産業の合理的な利益の一定の割合でもよい。
同一の技術標準の下での標準必須特許は業界によってそれぞれの累積ロイヤルティ料率を適用することができる。
4.適切なライセンス料の算定方法を採用
標準必須特許ライセンス料は「トップダウン」、比較可能なライセンス契約などの方法で算定する。
「トップダウン」方法を採用した場合、特許ライセンス料の積み上げを回避できる。同方法はまず特定の標準下のすべての標準必須特許の累積ロイヤルティ料率の上限値を確定した後、特許権者ごとに標準必須特許保有数の実際の割合を算定し、さらにそれによって特許権者ごとの合理的なライセンス料の比率を算定する。
「比較可能なライセンス契約」方法を採用する際、取引の主体、ライセンス製品、ライセンス地域、ライセンス標的間の関連性、ライセンスの取引先及びライセンス双方の交渉過程などの要素を総合的に考慮する。
「トップダウン」と「比較可能なライセンス契約」のどちらの方法を採用しても、特許権者の標準必須特許保有数の実際の割合、標準必須特許の地理的分布を考慮すべきであり、それとともに標準必須特許権者の標準への実際の貢献度と提案状況を考慮してもよい。
四、解釈権と声明
本ガイドラインは、中国汽車工程学会の知的財産権分会、IMT-2020(5G)推進組と自動車標準必須特許作業部会がその解釈に責任を負う。
本ガイドラインは公布日より施行する。
本ガイドラインの条項に中国国内の現行法律法規と不一致が生じた場合、現行法律法規に準ずる。
(中国自動車知識産権運用促進センターホームページから翻訳)