中国最高裁判所は4月21日、『中国裁判所の知的財産権案件における法律の適用に関する年次報告(2024年)』を発表した。この報告書は、全国の裁判所が2024年に裁判終了した知的財産権案件から43の法律適用規則を整理したものであり、その中の商標案件の判決要旨は以下の通りである。
1.地理的表示証明商標権侵害の判断の考察要素
【判決要旨】被疑侵害行為が地理的表示証明商標権侵害に該当するか否かを判断するには、以下の要素を考察する必要がある。第一に、被疑侵害商品が地理的表示商標の使用条件(当該商品が特定の産地に由来すること)を満たすかどうか。第二に、被疑侵害商品が地理的表示製品の特質を有するかどうか。第三に、被疑侵害行為は関連公衆に商品の出所及び特質について誤認混同を生じさせるかどうか。
2.商標の先使用権抗弁の認定
【判決要旨】商標の先使用権抗弁を適用するには、先使用者と登録商標専用権者の利益のバランスをとる必要がある。同一または類似の商品において、他人の登録商標と同一または近似し、一定の影響力を有する商標を善意で先使用していた場合、先使用者は従来の範囲内でその商標を継続して使用する権利を有する。ただし、先使用が商標出願日より早くても、商標登録者の使用時期より遅く、先使用者の「知る状態または知り得る状態」などを裏付ける証拠がある場合、先使用権抗弁を認めるべきではない。
3.景勝地名の正当な使用の認定
【判決要旨】標識が単に景勝地名を示し、または当該景勝地の関連内容や特徴を説明・記述するために必要な範囲のみで使用され、関連公衆が一般的な注意を払い日常生活の経験を結び付ければ、商品・役務の出所を混同しない場合、当該標識は正当かつ合理的な使用に該当し、商標権侵害とはならない。
4.権利侵害による利益を証明する証拠がある場合、それが優先的に賠償額算定の基準になる
【判決要旨】商標法第六十三条は損害賠償額の算定方法の適用順位を規定しており、裁判所は損害賠償額を確定する際に、権利者の実際の損失、権利侵害者の権利侵害による利益、および合理的な使用許諾料を優先して算定しなければならない。実際の損失、権利侵害による利益、使用許諾料のいずれも算定が困難な場合に限り、法定賠償を適用する。
5.小売サービスと「販売促進の代行」サービスとの類似性判断
【判決要旨】商品の販売者が末端消費者に提供する小売サービスは、目的・内容・方法・対象を見ると、第35類「販売促進の代行」サービスと高度な類似性を有する。小売サービスの提供において、第35類「販売促進の代行」商標と同一の標識を許諾なく使用し、関連公衆にサービスの出所を混同させやすい場合、商標権侵害を構成すると認定しなければならない。
6.医薬品商標権侵害案件における標識の寄与率の算定及び懲罰的賠償の適用
【判決要旨】1.医薬品商標権侵害案件では、医薬品分野のマクロな発展動向、消費者が医薬品を購入する際のミクロ的視点、特定医薬品業界への参入ハードル、先発医薬品とジェネリック医薬品の技術的区別、製薬企業自体の知名度等を総合的に考慮し、被疑侵害医薬品の収益への係争標識の寄与率を合理的に算定しなければならない。
2.被疑侵害者が権利者の株主で同業事業者であり、株式保有関係の終了後、同一商品において権利者の商標に近似する標識を登録出願して使用し、かつ行政判決で当該商標の無効審決が確定した後も侵害行為を中止せず、関連医薬品が高度警戒薬、紛らわしい薬に属し、侵害行為が人の健康を害する可能性がある場合、商標法が規定する「悪意の商標専用権侵害であり、情状が深刻」な状況に該当し、法により懲罰的賠償を適用できる。
7.商品の外観で商標を出願した場合の識別力判断
【判決要旨】商品の外観の形で出願した係争商標について、出願人が、実際の使用行為を通じて関連公衆に当該商標を単なる商品の外観だけでなく、商品の出所の識別標識として認識させていたことを裏付ける十分な証拠を提出できない場合、係争商標は識別力を有しないと認定される。
8.商標登録が他人の先行ドメイン名の権利を侵害するか否かの認定
【判決要旨】係争商標登録が他人の先行ドメイン名の権利を侵害すると認定するには、以下の要件を同時に満たす必要がある。ドメイン名が先に登録され、一定の知名度を有すること、ドメイン名の運営者が提供する商品・役務が係争商標の指定商品・役務と同一または類似すること、さらに係争商標が当該ドメイン名と同一または近似し、関連公衆の混同誤認を招きやすいことである。ドメイン名の運営者が提供する商品・役務における宣伝・使用証拠は、知名度認定の事実上の根拠とすることができる。
9.商標法第四十四条「その他の不正手段による登録」の適用
【判決要旨】係争商標が商標法第四十四条第一項の「その他の不正手段による登録」に該当するか否かを判断する際、単に商標出願人の出願商標数が一定規模に達したことだけをもって「その他の不正手段による登録」に該当すると認定するのは適切でない。係争商標には本当に使用される意思があり、または実際に商業利用されていることが証明でき、かつ係争商標の出願に合理性または正当性がある場合、一般的には、係争商標が本条にいう情状に該当すると認定するのは適切でない。
10.商標の3年連続不使用取消審判における指定商品の認定
【判決要旨】係争商標を実際に使用した商品が『類似商品・サービス区分表』の標準商品名に該当しないものの、当該商標の指定商品と基本的に同一商品、または実際に使用した商品が指定商品の下位概念の商品である場合は、指定商品上の使用として認められる。『類似商品・サービス区分表』が係争商標登録後に変更された場合も、上記認定に影響を及ぼさない。
11.ゲーム生配信プラットフォームの行為が「販売促進の代行」サービスに該当するか否かの認定
【判決要旨】ゲーム生配信プラットフォームが自社のトラフィックとユーザーリソースによる優位性を利用し、ゲーム生配信・ゲームダウンロード・フォーラムの提供・プロモーション活動の企画等を通じて提携ゲームを宣伝し、提携ゲームのダウンロード数や課金額を増やして、ゲーム収益の一部を得る行為は、他人の商品・サービス販売のために企画・宣伝を提供するものと認められ、『類似商品・サービス区分表』第35類「販売促進の代行」サービスに該当する。
(出所 中国最高裁の公式サイト)