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中国最高裁 「科学技術イノベーションの知的財産権に対する司法保護の強化」に関する指導的判例を発表

時間:2026-03-31

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中国最高裁判所は2026年2月28日、記者会見を開き、「科学技術イノベーションの知的財産権に対する司法保護の強化」に関する指導的判例を発表した。

イノベーション駆動型発展戦略の実施の深化に伴い、国家発展の戦略的資源および国際競争力の中核的要素としての知的財産権の役割は日増しに顕著になり、社会全体の知的財産権保護意識は著しく高まり、知的財産権紛争案件の数も急速な増加傾向にある。2021年から2025年にかけて、全国の各階級の裁判所は知的財産権一審案件250万件余りの裁判を終了した。これはその前の5年間と比較して64.44%の増加であり、以下の3つの顕著な特徴を示している。第一に、ハイテク、先端科学技術分野の紛争案件が継続的に増加している。新エネルギー、人工知能、バイオ医薬、インターネットコア技術及びデジタルエコノミーなどの新興分野が急速に発展しており、その速い技術更新、高い専門性、規則の不備などの特徴により、関連する知的財産権紛争案件が増加し、権利範囲の認定、技術的事実の解明、権利侵害の対比と判断などの問題がますます複雑になっている。第二に、独自のイノベーションに係わる紛争案件の割合が継続的に増加している。中国の独創的、先導的、画期的な科学技術の研究開発・産出レベルの持続的な向上に伴い、コア技術、基本的アルゴリズム、キープロセスなどの独自のイノベーションに関する案件が明らかに増加しており、案件審理とコア技術権益の保護、国家の科学技術競争優位性及び産業安全保障の維持との関係がさらに密接になっている。第三に、紛争主体の多様化の傾向が顕著になっている。企業のイノベーション主体としての地位がより際立ち、企業と大学・研究機関がイノベーション共同体を設立し、科学技術イノベーションプラットフォームの形態がより豊富になり、協同イノベーション、異業種融合イノベーションが絶えず深化しており、知的財産権紛争の主体も相応に多様化傾向を示し、大手ハイテク企業、中小零細企業、科学研究機関、研究者、さらには海外企業など、様々なイノベーション主体を網羅している。

今回発表された7件の指導的判例は、植物新品種権侵害、特許権及び実用新案権侵害、技術秘密侵害、コンピュータソフトウェア著作権侵害、悪意の訴訟など複数の分野に関わっている。そのうち、273号指導的判例は、ある企業において短期間に多数の技術者が退職したことによって引き起こされた技術秘密侵害案件である。この判例は、被疑侵害者が他社から人材を引き抜き、当該企業の技術秘密を取得するチャンス又はルートを作り、かつ独自の研究開発に必要とされる合理的な時間より明らかに短い期間で当該企業の技術秘密に関連する製品を生産したことで、被疑侵害者が技術秘密を侵害したと推定できることを明確にした。この判例はまた、侵害停止の具体的な要件を詳細に定め、判決が効果的に執行され、侵害行為が効果的に抑制されることを確保している。

274号指導的判例は、販売の申出による侵害行為の民事責任について更に明確にした。法によれば、専利権者の許可を得ずに、広告を出したり、店舗ショーウィンドウに陳列したり、展示会に出品するなどの形で商品を販売する意思表示を行った場合、販売の申出による侵害にあたる。この判例は、販売の申出による侵害行為を実施した場合の民事責任には、侵害行為の停止、権利保護のための合理的な費用の支払いだけでなく、損害賠償も含まれ、かつ当該損害賠償責任は実際の販売が行われたことを前提としないことを明確にした。賠償額を専利権者の損失、侵害者の利益または専利実施許諾料に基づいて確定できない場合は、侵害行為の過失と情状を考慮して、法定賠償額の範囲内で相当な額を合理的に算定することができる。

275号指導的判例は、徹底した審査により、種子販売分野における「組織的販売行為」の性質の認定ルールを更に明確にし、背後にいる侵害者に当然の法的責任を負わせるものである。この判例は、被疑侵害者が「情報マッチング」、「仲介サービス」などの提供を名目としながら、実際には取引価格、取引数量、履行時期などの具体的な取引条件の決定を主導し、取引の組織者、意思決定者にあたる場合には、当該被疑侵害種子の販売行為を直接実行したと認定できることを明確にした。

276号指導的判例は、化学、生物分野の特許案件の審理において、専利の進歩性を判断するための「3ステップ法」の正しい適用方法について、明確かつ具体的な指針を示した。すなわち、第一に、当業者が関連する発明創造について成功の合理的な見込みを有するか否かは、改良への動機付けまたは技術的示唆の有無を判断する際の考慮要素であり、直近の先行技術を特定する際の考慮要素ではない。第二に、当業者が成功の合理的な見込みを有するか否かの判断は、「成功の確実性」または「高い成功の蓋然性」を求めるものではなく、当業者が「試みる必要性」があると考えるか否かを基準とすべきである。

277号指導的判例は、被疑侵害製品の現物を入手または分解することが客観的に困難であり、当該製品の現物を技術対比の根拠とすることができない場合に、どのように特許侵害判定を行うかという問題を解決するものである。この判例は、被疑侵害製品の図面と現物が高度に一致していることを証明する証拠がある場合、裁判所は当該図面を技術対比の根拠とすることができることを明確にした。

278号指導的判例は、知的財産権をめぐる悪意の訴訟に断固とした姿勢を示し、訴訟の誠実性を維持し、市場環境を浄化し、市場主体の正当な経営を保障するという明確な立場を示すものであり、自らの主張が明らかに権利の根拠または事実上の根拠を欠いていることを知りながら、なおも他人に対し専利侵害訴訟を提起し、他人の権益を損なうことは、訴権を濫用する悪意の訴訟であり、法により権利侵害責任を負わなければならないことを明確にした。

279号指導的判例は、コンピュータソフトウェア著作権侵害紛争案件において、被疑侵害ソフトウェアと著作権のあるソフトウェアが実質的に類似していることの証明が「困難」であるという問題に対して解決策を示した。すなわち、権利者が、両者の名称、バージョン番号、権利者情報などの特有の情報が同一であること、またはソフトウェアのインターフェースデザインが高度に近似していることを証明できる場合には、ソフトウェアコードの対比を行うまでもなく、両ソフトウェアが実質的に類似していると認定することができる。同時に被疑侵害者の合法的権益を保護するため、「被疑侵害者がこれに反証を挙げて十分に反論できる場合を除く」ことを明確にした。この判例は同時に、暴力、脅迫その他の方法で裁判所の証拠保全を妨害した被疑侵害者に対し、裁判所は法により、その者に不利な事実推定を行うことができること、すなわち、保全できなかった製品が権利侵害を構成すると認定し、具体的な賠償額を確定する際に、保全妨害を侵害の情状として考慮に入れることができることを明確にした。

(出所 中国最高裁の公式サイト)