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「一事不再理」原則が中国の商標行政案件における手続要求及び実体条文適用の問題について

時間:2016-10-13作者:

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「一事不再理」原則が商標行政案件における手続要求

中国の商標審査実務において、商標権者が商標評審手続きにおいて主張した請求理由は認めれず、「同一の事実及び同一の理由」をもって再び評審請求を提出することが「一事不再理」原則に禁じられ、当該商標権者の商標権利が法的保護を受けられなくなるケースは少なくない。例えば、「采集自From tmkoo.comNEW BALANCE ATHLETIC SHOE,INC.と国家工商行政管理総局商標評審委員会(以下「TRAB」という)、紐巴倫(中国)有限公司[1]の商標権無効審判請求」事件において、知財法院は、NEW BALANCE社は係争商標に対して提出した無効審判請求理由がその異議申立不服審判時の主張理由の一つであり、且つ関連の証拠書類をも提出していないまま、TRABはNEW BALANCE社の異議申立不服審判請求について係争商標の登録を許可する審決を既に下し、且つ法律の効力も発生したため、TRABはNEW BALANCE社の係争商標に対する無効審判請求について審理し、且つ被告審決を下したのは、一事不再理原則に違反し、手続き上の違法となると判断し、TRABの被告審決を取消すことと決定した。

商標法実施条例第62条には、「TRABは商標審判の請求に対し、既に裁定又は決定を下した場合、何人も同じ事実又は理由により再び審判を請求することはできない」と規定している。商標権者は「一事不再理」原則からの制限を回避するためには、同一商標に対して再び提出した無効審判請求が手続き上円滑にTRABに受理・審理されるように、二回目の審判請求は一回目の審判請求時と同一の法律条文の適用請求をできる限り避けることに心がけよう。例えば、「上海中清化工有限公司とTRAB、上海洗覇科技股份有限公司の商標無効審判紛争」事件において、洗覇社の一回目の無効審判請求理由の根拠は2001年商標法の第31条と第41条第2項であり、2012年11月20日に提出した二回目の無効審判請求理由の根拠は2001年第15条、第41条の「欺瞞的な手段又はその他の不正な手段で登録を得た場合」であり、前後二回の請求主張の根拠が異なるため、TRABは当該事件を受理審査した。当該事件は「一事不再理」原則に違反していない。

「一事不再理」原則が商標行政案件における実体条文適用の問題

商標法実施条例第62条は、「TRABは商標審判の請求に対し、既に裁定又は決定を下した場合、何人も同じ事実又は理由により再び審判を請求するはできない」と規定している。この規定は商標評審案件における評審請求の係属効力と前審審決の既判力、この二つの内容に及んでいる。

現行の商標法システムにおいて、全ての商標評審案件が「一事不再理」原則に適用する訳ではない。当該原則が商標登録無効審判の権利確定案件のみに適用する。即ち、係争商標についてかつて無効審判請求を提出したことがある案件は、同一の事実及び同一の理由をもって再び無効審判請求を提出することが禁じられている。評審申立人にとって、上記規定に対して真剣に理解しないと、具体的な商標無効審判請求案件において時間と精力を投入したかなかなか成果を出せないことがある。

係属効力は司法訴訟手続きから由来する概念である。係属効力とは、当事者が既に法院に訴訟提起した又は訴訟係属中の案件について、再び訴訟提起できないとの意味である。ただし、当事者は訴訟撤回後に同一の事実又は理由をもって再び提訴できるか否かは、民事訴訟法と行政訴訟法の規定は異なる。最高人民法院による「中華人民共和国民事訴訟法」の適用における若干問題に関する解釈の第214条によれば、当事者が訴訟撤回又は人民法院に訴訟撤回と見なされた後に、当事者が同一の訴訟請求をもって再び訴訟を提起する場合は、人民法院が受理するべきであるとの規定に対して、最高人民法院による「中華人民共和国行政訴訟法」の執行における若干問題に関する解釈(2000年解釈)の第36条第1項では、「原告の訴訟撤回が人民法院に認可された後に、原告は同一の事実と理由をもって再び提訴する場合、人民法院は受理しない」と定めている。商標法実施条例第62条の「申立人が商標審判の請求を取り下げた場合、同じ事実又は理由により再び審判を請求することはできない」との規定は、明らかに上記の行政訴訟法の司法解釈に従ったものであり、商標評審申立人が誠実・正当・慎重な態度にて審判請求の撤回権利の行使にも督促となる。実務において、当該明確な規定については疑問が少ない。これは三つの理由がある。まずTRABは審判案件の方式審査段階で、一度撤回され再び同一の事実と理由をもって重複提出の審判については判断することができる。そして、撤回された商標無効審判についての再度審判請求はコストの面にもメリッドがないし、方策としても賢明ではない。さらに、無効審判の再度提出の必要がある場合であっても、請求の根拠となる条文の適用条件の違いによって、無効審判の再度請求時は審判申立人の身分を変更すれば回避することができる。

商標評審事件における「一事不再理」原則の適用は、実務において一番検討されている問題は先行無効請求の規範力である。最も重要なのは「同一の事実」に対する認定である。評審事実は関連証拠で証明しなければならない。よって、「同一の事実」への認定焦点は証拠の選別と判定に集中することになる。事実の認定として利用できる証拠は三性の要求に満足した有効証拠でなければならない。よって、関連の法律問題はどのような証明力を持つ証拠が事実を形成できるという問題になる。

最高人民法院は最近審理した商標係争行政紛争事件3件を通じて、当該問題への理解に役に立てる。

「CHATEAU LAFITE ROTHSCHILDとFRANCE RAPHAEL WINE (ASIA) LIMITED及びTRABの商標権無効審判係争事件」[1]において、係争の焦点は知名度を証明する証拠が旧商標法第28条の適用に対する影響である。最高人民法院はCHATEAU社の再審請求を却下したが、最高人民法院は審理を経て、CHATEAU社がTRABに提出した引用商標の顕著性と知名度を証明する宣伝報道など証拠は商標局段階に提出しなかっため、異議申立段階と商標評審段階の証拠分量は遥かに違う。商標法第28条の適用には、引用商標の顕著性と知名度など要素についても考慮する必要がある。一審、二審法院は引用商標同一との理由で、CHATEAU社がTRABに提出した証拠で「新事実」形成したか否かについて審査もしていないまま、引用商標が本件引用商標として利用できないとの判断は妥当ではない。

「黄万平とTRAB及び湖南省長康実業有限公司の商標係争行政紛争事件」において[2]、紛争の焦点は再審申立人の補充証拠が新事実を形成できるか否かという点である。最高人民法院は、TRABが第14928号審決において引用商標は湖南省著名商標、馳名商標として認定され、並びに関連の民事判決において係争商標は実際の使用において消費者にそれを引用商標と混同誤認を生じさせる事実を明確に引用し、これをもって、引用商標は一定の知名度があり、且つ原の第3327号審決と異なる結論を下したと認定している。後の第14928号審決において引用且つ認定した事実は、当事者が商標評審手続きにおいて新たに提出した証拠で証明できる事実である。よって、TRABは新事実に基づき、本件を受理したのは商標法第42条に違反していない。

「BMW社とTRAB、孫錦君、浙江匡瑞特靴業有限公司、白国平の商標係争行政紛争」事件において[3]、最高人民法院は新事実とは新証拠で証明する事実であると明確に指摘している。新証拠は前審審決又は決定が下された後に新しく発見された証拠であり、或いは原の行政手続きにおいて客観的な理由があって取得できず又は定められた期間において提出できなかった証拠をいう。前審行政手続きにおいて提出できるべきの証拠を新証拠として認めることは、行政手続きの起動事由に対する法的制限が存在する意味がなくなり、穏やかな法的秩序の形成に不利である。それに、再審申立人の補充提出証拠は主にその引用商標知名度を証明する証拠であり、TRABはこれに対して異論がない。第24588号審決において係争商標が商標法第13条第2項違反の係争理由を棄却したのは雨靴と車両の商品の区別が大きいからである。既に発効した商標評審事件について、前審と異なる証拠を提出すれば「新事実」構成と認定するわけではない。再審申立人は現在の審理において補充提出の証拠が確実に採用すべきの新証拠であると説明しておらず、TRAB及び一審、二審判決がそれは「一事不再理」適用との認定は正確である。再審申立人は同一の事実及び理由をもって再度係争申請を提起することで救済を受けることを採用しないべきものである。

上記の事例から、商標権利確定評審案件において提出される証拠の証明力について以下のように解読できる。

1) 後案で提出された前案と異なる全ての新証拠について新事実を構成するか否かについて慎重に考慮しなければならない。

2) 簡単的・補助的・同一性質の新しく提出された証拠は、前案において認定された事実に対する補充証拠に過ぎない場合は、決定的な新事実を構成できない。

3) 採用される新しく提出された証拠が、それをもって証明する新事実が商標法実体条文の適用結果に直接影響を与えるものでなければならない。

纏めていうと、TRAB及び人民法院は商標評審案件における事実に対する認定は、十分な証明力を持つ証拠がその根拠となる。よって、当事者が商標権利確定評審案件において商標法の実体条文を適用する場合は、その主張について十分に立証しなければならない。一方、証拠の「量」も少なくてはいけない。もう一方、証拠の多寡は量的変化が必ず質的変化へ転化するとは限らない。なぜかというと、商標法実体条文の適用結果に直接影響を与えるのは新事実でなければならない。証拠の「質」と「量」が、TRABと法院は具体的な案件の審理において、経験法則、ロジック規則と自身の理性良心で自由判断し内心確認につながる証拠こそが、新提出の証拠に基づき新事実形成と認める可能性がある。もちろん、ここでいう「新事実」とは客観的な事実ではなく、法的事実にことを指す。というと、新事実がからなず新しく提出された証拠から形成すると片面に理解してはいけない。実務において、同一の証拠が必ず同一の事実認定になるとは限らない。商標無効宣告手続きにおいて、採用される証拠の表現及び整理方式が多様である。同一商標に対する重複の登録無効宣告請求において提出された証拠が完全に同一であっても、無効宣告理由は異なる証拠の結合方法を使えば、全く異なる事実効果に導くことも可能である。

商標法実施条例第62条は「同一の事実と理由」の評審申請は禁じられると規定している。「同一の理由」は商標法又は商標法実施条例の同一の条文との片面な理解が狭すぎる。商標法又は商標法実施条例の違う実体条文には違った理由に対応する。一部の条文、例えば相対拒絶理由としての第32条の前半と後半は異なる理由に対応し、前半部分は先行権利の種類によって具体的な評審理由の根拠も異なる。よって、同一の条文を引用しても同一の理由になるとは言えない。「理由」概念外延の定義が大きければ大きいほど、対比され更に同一と判断される可能性が低い。事実同一であっても、理由が違えば、受理され更に審理されるべきであると思っている。具体証拠は同一であり、具体理由も同一である場合は、無効審判申立人は再度の無効宣告案件において当該事実と理由に基づく論述と分析過程が異なり、この説明が事実への理解と法律適用に有利であれば、改めて客観分析と総合判断を固く断る理由もなく、正確な審決結論を下すべきものである。

上述の通り、商標権者の利益をより有効に保護するために、「同一の事実と理由」の概念について的確に理解する必要があり、中国商標評審実務において当該原則に関する具体的な適用条件について正確に把握し、商標権者の商標権利を確実に保護することが大事であると思っている。

 

 

[1]   紐巴倫(中国)有限公司の会社名称「紐巴倫」は「New Balanceの音訳」と理解できる。

[2]   最高人民法院の(2014)知行字第33号判決

[3] 最高人民法院の(2014)知行字第60号判決

[4] 最高人民法院の(2014)知行字第46号判決