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新改正「企業名登記管理に関する規定」の3つの変化 ―知財保護の角度から

時間:2021-09-01作者:

褚褔海

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「企業名登記管理に関する規定」は、1991 年 5 月 6 日に中国国務院(内閣)の批准を経て元国家工商行政管理局によって公布された。2012年11月9日に第一回改正され、2020年12月14日に国務院によって第二回改正された。新改正の「企業名登記管理に関する規定」は2021年1月19日に公布され、2021 年 3 月 1 日から施行される。改正前は 34 条、改正後は 26 条である。

今回の改正の背景は、「権限下放、管理とサービス」(いわゆる「権利下放、管理とサービス」とは、行政の効率化、権限下放と管理の結びつけ、サービスの最適化を意味する)の改革とビジネス環境の最適化を深化させることである。 改正の目的は、起業の利便性を高め、起業コストを削減し、市場の活力を活性化することにある。

知財保護の角度から新改正の「企業名登記管理に関する規定」を見れば、以下3つの変化が伺われる。

第一、今回改正の重大な変化は、企業名の自主申告制度を全面的に確立することです。改正後の「企業名登記管理に関する規定」第16条は、「企業名は申請者が自主的に申告する。申請者は企業名申告システムまたは企業登記機関のサービス窓口で関連情報と資料を提出し、登記を申請する予定の企業名に対して検索、対比、選別を行い、本規定の要求に合致する企業名を選ぶことができる。申請者が提出した情報と資料は真実、正確、完全でなければならない。そして、その企業名が他人の企業名と近似して他人の合法的権益を侵害する場合、法律に基づき法的責任を負うことを承諾する」と規定する。自主申告制度は企業名に自主選択権を与え、過去の企業名の事前承認制度を変更した。これは「放す」を表している。しかし、「放す」とは放任自流を意味するものではなく、今回の改正では、申請者がその企業名が他人の企業名と近似して他人の合法的権益を侵害する場合、法律に基づき法的責任を負うことを承諾しなければならないことを明確にした。「放す」に「管理」があり、「放す」はよりよく「管理」するためであると言えるだろう。

第二、今回改正のもう一つの重大な変化は、企業名の使用が他人の合法的権益を損なってはいけないことを明確にしたことである。新改正の「企業名登記管理に関する規定」第23条第1項は、「企業名を使用する場合、法律・法規を遵守し、誠実で信用を守り、他人の正当な権益を損害してはならない。」と明記している。企業名は、異なる企業を区別する重要なマークであり、企業ブランド宣伝の担い手でもある。企業名自体(特に商号)が企業ブランドの不可分の一部分であり、商標と密接に関係している。近年来、企業名と商標権等の知的財産権との衝突による民事紛争がますます増加している。

言うまでもなく、商標権、著作権などの知的財産権は重要な合法的民事権益であり、企業名の使用は他人の先行商標権、著作権を損なってはいけない。企業名は自主申告であり、「企業名登記管理に関する規定」などの法規により調整されているが、商標登録は形式審査と実体審査を経て商標局より登録商標専用権を付与され、かつ商標は「商標法」などの法律により調整されている。このように両者の権利獲得の方式と調整される法律法規が異なるため、両者の間の衝突が避けられない。企業名と他人の先行登録商標専用権との衝突を避けるために、申請者は企業名を申請する前に、中国の商標網などのデータベースで検索を行い、申請の企業名と商号が他人の先行商標権を侵害しているかどうかを確認した上で、企業名の登記を申請する必要がある。現在、全国企業名管理システムと商標登録管理システムの間にデータ交流ルートが確立されていない。これは今後の改善が必要なところであると思われる。また、企業名の自主申告と著作権の自動取得との間の衝突問題も依然として目立っている。著作権は著者が作成した後に自動的に取得したもので、登録する必要がなく、また全国統一の著作権データベースが存在しないため、申請者は企業名の登記を申請する前に、企業名が先行の著作権を侵害しているかどうかを検索することができない。これも今後の模索と改善が必要なところである。

他人の合法的権益は商標権、著作権のほか、企業名称権も含む。企業は先に合法的に登記した企業名に対し、法により企業名称権を享有する。企業名称権の間の衝突を解決するために、中国は省市県の三級企業名称データベースをすべて社会に開放することを実現した。従って、企業は企業名を申請する時、事前に企業名データベースに登録して、既存企業がすでにどれらの名称を使っているか、申請者が登記を申請する予定の企業名は他人の先行企業名と競合していかどうかなどが分かる。しかし、中国の企業名の登記は区(県)に分けて登記され、等級に分けて管理される制度で、全国企業の数が膨大であるため、ある企業名申請者が主観的に傍名牌の悪意を持って、実際には多くの企業名争議の例が発生している。今回の改正で、企業名争議の処理メカニズムが盛り込まれた。新改正の「企業名登記管理に関する規定」第21条では、「企業は、他の企業名が本企業名称の合法的権益を侵害していると判断した場合、裁判所に起訴することができ、または権利侵害の疑いがある企業の登記を行う企業登記機関に処理を請求することができる。企業登記機関は申請を受理した後、調停を行うことができる。調停ができない場合、企業登記機関は受理の日から3ヶ月以内に行政決定をしなければならない。」と規定している。新改正の「企業名登記管理に関する規定」第23条では、「……裁判所又は企業登記機関は、法により企業名称の使用を停止しなければならないと認定した場合、企業は、裁判所の発効した法律文書又は企業登記機関の処理決定を受けた日から30日間以内に企業名称の変更登記をしなければならない。名称が変更される前に、企業登記機関が統一社会信用コードを以ってその名称を代替する。企業が期限を過ぎても変更登記をしていない場合、企業登記機関はその企業を経営異常名簿に入れる。変更登記が完了されたら、企業登記機関が経営異常名簿からその企業を削除する。」と規定する。この規定は「反不正競争法」の第18条と関連しており、これは我が国の法律法規が悪意の侵害者に対する処罰力を強めていることをも示している。

第三、今回の重大な改正として、「商号の譲渡又は他人への使用許諾」の制限が緩和される。新改正の「企業名登記管理に関する規定」の第19条は「企業名を譲渡、あるいは使用権を他人に付与する場合、当該企業は、法律に基づき、国家の企業信用情報公開システムを通じて社会に公開しなければならない。」と規定している。つまり、企業は自分の企業名を他人に使用許諾し、生産経営を拡大し、企業名の知名度を高めることができる。無論、企業は国家企業信用情報公示システムを通じて企業名の許諾使用状況を社会に公示しなければならない。これは大きなチャンスであり、大きな挑戦でもあると筆者は考えている。大きなチャンスとは、企業の自主権が増大し、唯一の企業名まで他人に授権許諾して使うことで、規模効果を増加させ、連鎖効果をもたらす。重大な挑戦とは、企業名の授権許諾による商標侵害行為が増加する可能性があり、企業名の授権許諾による誤認や虚偽の宣伝行為などの不正競争行為が同様に増加する可能性があることをいう。授権側は他人に権限を授けてその唯一の企業名称を使用させると同時に、どうやって授権された側を効果的に管理し、自分の企業名称に含まれる商誉を維持し、商標侵害と不正競争を避けるかは、企業名の授権側に置く重大な問題である。