(2020年11月9日、最高裁判所審判委員会第1815回会議で採択され、2020年11月18日より施行)
当事者の法律に基づく訴権の行使を保障し、利便性を高め、裁判所による知的財産権民事案件の公正かつ速やかな審理を保証するために、『中華人民共和国民事訴訟法』などの関連法律・規定に基づき、知的財産権の民事裁判の現状に合わせて、本規定を制定する。
第一条 知的財産権民事訴訟の当事者は、信義誠実の原則に従い、法律および司法解釈の規定に照らして、積極的、包括的、正確かつ誠実に証拠を提出しなければならない。
第二条 当事者は、自らの主張に対し、それを証明する証拠を提出しなければならない。案件の審理状況に応じて、裁判所は、民事訴訟法第六十五条第二項の規定を適用し、当事者の主張、要証事実、当事者の証拠保有状況、挙証能力などに基づき関連証拠を提出するよう当事者に求めることができる。
第三条 専利方法で製造された製品が新製品でない場合、専利権侵害紛争の原告は、以下の事実を証明する証拠を示さなければならない。
(一) 被告が製造した製品は、専利方法を使用して製造された製品と同じであること。
(二) 被告が製造した製品は、専利方法で製造された可能性が高いこと。
(三) 原告は、被告が専利方法を使用したことを証明するために合理的な努力を尽くしたこと。
原告が前項の証拠を示した後、裁判所は、被告に対してその製品の製造方法が専利方法と異なることを証明する証拠を示すよう求めることができる。
第四条 被告が法律に基づき合法的出所の抗弁を主張する場合、合法的な購入経路、合理的な価格と直接の供給者などを含む、被疑侵害製品、複製品を合法的なルートで取得した事実を証明する証拠を示さなければならない。
被告の提出した被疑侵害製品、複製品の合法的出所の証拠が合理的な注意義務に相当する場合、前項の証拠を示したと認定でき、被疑侵害製品、複製品が知的財産権を侵害していることを知らなかったと推定することができる。被告の経営規模、専門レベル、市場取引習慣などは、合理的な注意義務を確定する証拠とすることができる。
第五条 知的財産権の非侵害確認訴訟を提起した原告は、以下の事実を証明する証拠を示さなければならない。
(一) 被告が原告に侵害警告書を発送した、或いは原告に対して権利侵害訴訟を提起していること。
(二) 原告が被告に訴権行使催告書を発送したこと、催告日、発送日。
(三) 被告が合理的な期間内に訴訟を提起していないこと。
第六条 法定期間内に行政訴訟が提起されなかった行政措置により認定された基本的事実、または行政措置により認定された基本的事実が既に発効した判決の一部であるものに対し、当事者は知的財産民事訴訟において再び証明する必要はない。但し反証がそれを覆すに十分である場合を除く。
第七条 権利者が知的財産権侵害行為を発見または証明するために、自らまたは他人に依頼して、一般購入者の名義で被疑侵害者から権利侵害物品を購入し、取得した実物、領収書などは、被疑侵害者の権利侵害を提訴する証拠とすることができる。
被疑侵害者が他人の行為に基づいて知的財産権侵害行為を実施することで形成された証拠は、権利者が権利侵害を提訴する証拠とすることができる。但し、被疑侵害者が権利者の挙証行為のみに基づく知的財産権侵害行為を実施した場合を除く。
第八条 中華人民共和国の領域外で形成された以下の証拠について、当事者が、公証、認証などの証明手続を経ていないものであることのみを理由として異議を申し立てた場合、裁判所はこれを支持しない。
(一) 裁判所の法的効力が発効した判決により確認された証拠。
(二) 仲裁機関の発効した裁決により確認された証拠。
(三) 公式または公開ルートから取得できる公開出版物、専利文献など。
(四) 他の証拠で真実性を確認できる証拠。
第九条 中華人民共和国の領域外で形成された証拠が次のいずれかの状況に該当する場合、当事者が、当該証拠が認証手続を経ていないものであることのみを理由として異議を申し立てた場合、裁判所はこれを支持しない。
(一) 異議を申し立てた当事者が証拠の真実性を明確に認めた場合。
(二) 相手方当事者が証人の証言を行い証拠の真実性を確認し、かつ証人が虚偽の証言をした場合には処罰を受けると明確に表明した場合。
前項第二号の証人が虚偽の証言をし、民事訴訟法第百十一条に規定する状況に該当する場合、裁判所は法に基づき処理する。
第十条 一審手続きにおいて民事訴訟法第五十九条、第二百六十四条の規定に従い、授権委任状の公証、認証またはその他の証明手続きを完了した場合、その後の訴訟手続きにおいて、裁判所は当該授権委任状の上記の証明手続を求めなくてもよい。
第十一条 裁判所は、当事者または利害関係者による証拠保全の申立てに対して、次の要素に合わせて審査しなければならない。
(一) 申立人が自らの主張について初歩的な証拠を提出したかどうか。
(二) 証拠は申立人が自ら収集できるかどうか。
(三) 証拠の喪失またはこの後取得困難の可能性および要証事実の証明への影響。
(四) 可能な保全措置が証拠保有者に及ぼす影響。
第十二条 裁判所は証拠保全を行う際、有効な証拠の固定に限定し、保全対象物の価値の棄損及び証拠保有者の通常の生産経営への影響を最小限に抑えなければならない。
証拠保全が技術案にかかわる場合、現地調査の書面記録、作図、撮影、録音、録画、設計と製造図面の複製などの保全措置を講じることができる。
第十三条 当事者が正当な理由なく協力を拒否または証拠保全を妨害し、そのため証拠を保全できない場合、裁判所は、当事者がその不利な結果を負うと確定することができる。民事訴訟法第百十一条に規定される状況にあたる場合、裁判所は法に従い処罰する。
第十四条 裁判所がすでに保全措置を講じた証拠について、当事者が、勝手に証拠の実物を分解・組立し、証拠資料を改ざんし、またその他の証拠を破壊する行為を行い、そのため証拠を使用できなくした場合、裁判所は、当事者がその不利な結果を負うと確定することができる。民事訴訟法第百十一条に規定にされた状況にあたる場合、裁判所は法に従い処罰する。
第十五条 裁判所は証拠保全を行う際、当事者または訴訟代理人の立ち会いを要求することができる。必要であれば当事者の申請により専門知識のある者の立ち合いを要求し、または技術調査官を指定して証拠保全に参加させることができる。
関係者以外の者が証拠を保有する場合、裁判所は、それが保有する証拠に対して証拠保全措置を講じることができる。
第十六条 裁判所は証拠保全を行う際、記録、保全証拠リストを作成し、保全の実施日、場所、実施者、立会人、保全の経緯、保全対象物の状態を記録し、実施者、立会人は署名または押印しなければならない。関係者が署名または押印を拒否した場合、保全の効力に影響を及ぼさず、裁判所は書面記録に記載し、撮影、録画することができる。
第十七条 被申立人が証拠保全の範囲、措置、必要性などについて異議を申し立て、かつ関連証拠を提出し、裁判所が審査を経て異議の理由が成立すると判断した場合、証拠保全を変更、終了、解除することができる。
第十八条 申立人は保全された証拠の使用を放棄したが、保全された証拠が案件の基本的事実の究明にかかわり、または他の当事者が使用を主張する場合、裁判所は当該証拠について審査・認定することができる。
第十九条 裁判所は以下の要証事実の専門的事項について鑑定を委託することができる。
(一) 被疑侵害の技術案と専利技術案、既存技術の対応する技術特徴との手段、機能、効果などの面における類似点・相違点。
(二) 被疑侵害品と権利を主張する製品との類似点・相違点。
(三) 当事者が主張する営業秘密と所属分野の公知情報との類似点・相違点、被疑侵害に係る情報と営業秘密との類似点・相違点。
(四) 被疑侵害物と、専利権が付与された種類との特徴、特性などの面における類似点・相違点、その相違点が非遺伝的変異によるものかどうか。
(五) 被疑侵害集積回路レイアウト設計と権利保護を求める集積回路レイアウト設計との類似点・相違点。
(六) 契約書に係る技術に欠陥があるかどうか。
(七) 電子データの真実性、完全性。
(八) 鑑定を必要とするその他の専門的問題。
第二十条 裁判所の許可または双方当事者の同意を得て、鑑定人は、鑑定事項の一部を他の検査機関に委託することができ、検査結果に基づいて発行した鑑定意見について法的責任を負う。
第二十一条 鑑定業務分野において、鑑定人と鑑定機関の統一登記管理制度が実施されていない場合、裁判所は『最高裁判所による民事訴訟証拠に関する若干規定』の第三十二条に規定する鑑定人選定手続きに従い、相応の技術水準のある専門機関、専門家を確定することができる。
第二十二条 裁判所は、各当事者から意見を聴取し、当事者が提出した証拠と合わせて鑑定の範囲を確定しなければならない。鑑定中に一方の当事者が鑑定範囲の変更を申請し、相手方の当事者に異議がない場合、裁判所はこれを許可することができる。
第二十三条 裁判所は、以下の要素を考慮して鑑定意見を審査しなければならない。
(一) 鑑定人が相応の資格を持っているかどうか。
(二) 鑑定人が関連する専門的問題を解決するに必要な知識、経験及びスキルを持っているかどうか。
(三) 鑑定方法と鑑定手続きが標準に合うかどうか、技術的手段が信頼できるかどうか。
(四) 検査のために提出された検査資料は当事者が反対尋問し、かつ鑑定条件を満たしているかどうか。
(五) 鑑定意見の根拠が十分であるかどうか。
(六) 鑑定人に回避すべき法定事由があるかどうか。
(七) 鑑定手続きにおいて鑑定人に不正行為または公正な鑑定に影響を与えるその他の行為があったかどうか。
第二十四条 挙証責任を負う当事者が裁判所に証拠を把握する相手方当事者に証拠の提出を命じるよう書面で申請し、申請理由が成立する場合、裁判所は裁定を下し、証拠提出を命じなければならない。
第二十五条 裁判所が法に基づき当事者に関連証拠の提出を要求し、当事者が正当な理由なく提出の拒否、虚偽の証拠の提出、証拠の隠滅、またはその他の証拠の使用を不能とする行為を実施した場合、裁判所は、相手方当事者の当該証拠にかかわる証明事項の主張が成立すると推定することができる。
当事者が前項の行為を実施し、民事訴訟法第百十一条に規定する状況に該当する場合、裁判所は法に基づき処理する。
第二十六条 証拠が営業秘密或いは他の秘密保持が必要な営業情報にかかわる場合、裁判所は、関連する訴訟参加者が証拠に接する前に、秘密保持契約を締結し、秘密保持を承諾するよう要求し、或いは裁定などの法的文書をもって、本案の訴訟以外のいかなる目的での訴訟手続きで接する秘密情報の開示、使用、他人への使用許可を行ってはならないと命じなければならない。
当事者が前項に記載の証拠に接する者の範囲を制限するよう申請し、裁判所が審査を経て必要であると判断した場合、許可しなければならない。
第二十七条 証人は出廷して証言し、裁判官や当事者から質問を受けなければならない。
双方当事者が同意し、かつ裁判所の許可を経て証人が出廷しない場合、裁判所は当事者を集めて当該証人の証言について検証しなければならない。
第二十八条 当事者は、専門知識のある者が出廷して、専門的問題について意見を提出するよう申請することができる。当事者は法廷の許可を経て専門知識のある人に質問することができる。
第二十九条 裁判所が技術調査官を指名して開廷前会議、開廷審理に参加させた場合、技術調査官は、案件にかかわる技術問題について、当事者、訴訟代理人、専門知識のある者、証人、鑑定人、現地調査員などに質問することができる。
第三十条 当事者が公証文書に対して異議を唱え、それを覆すに十分な反証を提出した場合、裁判所はその公証文書を採用しない。
当事者の公証文書に対する異議の理由が成立する場合、裁判所は、公証機関に説明書の発行または公証文書の補正を要求することができ、他の関連証拠と合わせて公証文書について審査・認定する。
第三十一条 当事者が提出した財務帳簿、会計証憑、販売契約、入出庫伝票、上場企業の年次報告書、目論見書、ウェブサイトまたはパンフレットなどの関連記載、設備システムに保存された取引データ、第三者プラットフォームが統計した商品流通データ、評価報告書、知的財産権ライセンス契約および市場上監督管理、税務、金融部門の記録などは、当事者が主張する知的財産権侵害の賠償額を確定する証拠として使用することができる。
第三十二条 当事者が知的財産権ライセンス料の合理的な倍率での賠償額の確定を主張する場合、裁判所は、以下の要素を考慮し、ライセンス料の証拠を審査・認定することができる。
(一) ライセンス料が実際に支払われたかどうか及び支払方法、ライセンス契約が実際に履行されたかどうか、届出されたかどうか。
(二) ライセンスの権利内容、方式、範囲、期間。
(三) ライセンシーとライセンサーに利害関係があるかどうか。
(四) 業界におけるライセンスの通常の標準。
第三十三条 本規定は、2020年11月18日から施行する。最高裁判所がこれまでに発表した司法解釈が本規定と一致しない場合、本規定に準ずる。