(2021年2月7日、最高裁判所審判委員会第1831回会議で採択され、2021年3月3日より施行)
知的財産権の懲罰的損害賠償制度を正しく実施し、法に基づき重大な知的財産権侵害行為を懲罰し、知的財産権の保護を全面的に強化するため、『中華人民共和国民法』、『中華人民共和国著作権法』、『中華人民共和国商標法』、『中華人民共和国専利法』、『中華人民共和国不正競争防止法』、『中華人民共和国種子法』、『中華人民共和国民事訴訟法』などの関連法律・規定に従い、裁判実務と結びつけ、本解釈を制定する。
第一条 原告が、被告が法に基づきそれの享受する知的財産権を故意に侵害し、かつ情状が深刻であると主張し、懲罰的損害賠償を被告に命じることを要求した場合、裁判所は法に基づいて審査・処理しなければならない。
本解釈にいう「故意」は、商標法第六十三条第一項および不正競争防止法第十七条第三項に規定される「悪意」を含む。
第二条 原告は、懲罰的損害賠償を請求する場合、訴訟を提起する際に、賠償額、計算方法、およびその根拠となる事実と理由を明確にしなければならない。
原告が一審裁判の口頭弁論が終了する前に懲罰的損害賠償請求を追加する場合、裁判所はそれを許可しなければならない。二審裁判で懲罰的損害賠償請求を追加する場合、裁判所は当事者の自主原則に基づいて調停を行うことができる。調停が成立しない場合、当事者に別途提訴するように通知する。
第三条 知的財産権侵害の故意の認定について、裁判所は、侵害された知的財産権客体の種類、権利の状態、関連製品の知名度、被告と原告あるいは利害関係者との関係などの要素を総合的に考慮しなければならない。
以下の状況について、裁判所は、被告に知的財産権を侵害する故意があると初歩的に判断することができる。
(1)被告は、原告または利害関係者から通知、警告を受けた後も、侵害行為を継続的に実施した。
(2)被告またはその法定代理人、管理者は、原告または利害関係者の法定代理人、管理者、実質的支配者である。
(3)被告は、原告または利害関係者との間に労働、労務、協力、ライセンス、取次、代理、代表などの関係があり、かつ侵害された知的財産権に接したことがある。
(4)被告は、原告または利害関係者と商取引を行い、または契約の締結等について交渉しており、かつ侵害された知的財産権に接したことがある。
(5)被告は、著作権侵害または登録商標の冒用詐称行為を実施した。
(6)故意と判断できるその他の状況。
第四条 知的財産権侵害の情状が深刻であることの認定について、裁判所は、権利侵害の方法、頻度、侵害行為の継続期間、地理的範囲、規模、結果、および訴訟における侵害者の行為などの要素を総合的に考慮しなければならない。
被告が以下の状況に該当する場合、裁判所は情状が深刻であると判断することができる。
(1)侵害によって行政処分あるいは裁判所の判決で罰せられた後、同じまたは類似の侵害行為を再び実施した。
(2)知的財産権侵害を生業としている。
(3)侵害の証拠を改ざん、破壊、または隠蔽した。
(4)保全裁定の履行を拒否した。
(5)権利侵害で得た利益または権利者が被った経済的損失が莫大である。
(6)侵害行為が、国家の安全、公共の利益または個人の健康に害をもたらす可能性がある。
(7)情状が深刻であると判断できるその他の状況。
第五条 裁判所は、懲罰的損害賠償額を確定する際、それぞれの関連法律に基づき、原告の実際の損失額、被告の違法所得の金額または侵害によって得た利益を計算基準としなければならない。この計算基準には、原告が侵害を阻止するために支払った合理的な費用は含まれない。法律に別段の規定がある場合は、その規定に従う。
前項にいう実際の損失額、違法所得の金額、侵害によって得た利益を算出することが困難な場合、裁判所は法に基づきそのライセンス料の倍数を参照して合理的に確定し、それを懲罰的補償額の計算基準とする。
裁判所は、法に基づき、被告に把握している侵害行為に関連する帳簿、資料を提出するよう命じ、被告が正当な理由なく提出を拒否し、または虚偽の帳簿、資料を提出した場合、裁判所は原告の主張と証拠を参考にして懲罰的損害賠償額の計算基準を確定することができる。民事訴訟法第百十一条に規定する状況に該当する場合、法に基づき法的責任を追究する。
第六条 裁判所は、法に基づき懲罰的損害賠償の倍数を確定する際、被告の主観的過失の程度や侵害行為の深刻さなどの要素を総合的に考慮しなければならない。
同じ侵害行為ですでに行政罰金または刑事罰金が科され、かつ執行が完了し、被告が懲罰的損害賠償の減免を主張した場合、裁判所はそれを支持しないが、前項にいう倍数を確定する際に総合的に考慮する。
第七条 本解釈は、2021年3月3日より施行する。最高裁判所がこれまでに公布した関連司法解釈と本解釈に不一致がある場合、本解釈に準ずる。